インフルエンザが今から100年前に世界的な大流行(パンデミック)を引き起こし、人類を苦しめたことがある。いわゆる「スペイン風邪」である。
1914年から1918年まで第1次世界大戦が戦われた。その末期、1918年1月ごろにアメリカで感冒が流行しはじめた。兵士達などの移動に伴い世界各地にこの感冒は拡散していった。4月にはフランス、イタリア、イギリスなどで感染者が増えていった。5月に入りスペインの国王や政府の要人たちを初め、多くのスペイン人が感冒に罹り、中立国であったスペインの新聞で大きく連日報道された。そのため、世界的流行(パンデミック)を起こしたこの感冒は「スペイン風邪」と呼ばれるようになった。
8月に流行が下火になった。しかし、同じころウィルスが変異を起こし、感染力がさらに強くなった。9月には世界中の港町を中心に新型インフルエンザ(=スペイン風邪)が広がり、感染者が増え続けた。日本でも1918年9月に「流行性感冒」が流行し始めた。栃木県では10月に下野新聞が栃木の高等女学校で感冒が流行し始めたことを伝えている。1919年に入り、感染者は増え、感冒から肺炎に進展して死亡する人々が増えた。しかし3月には各地で感染者が減少した。ここまでを日本では「前流行」としている。
1919年秋になると日本国中で再び「流行性感冒」が流行し始めた。スペイン風邪の第2波である。「後流行」とも呼ばれるものである。前流行と比べ、悪性度が高まったという報告が多い。1920年2月まで感染者が発生し、多くの死者がでた。2月がピークでその後患者は減りはじめ、6月ごろに全国的に終息した。その後の調査で、1918年9月から1920年4月までにスペイン風邪で死亡した日本人は74万人(当時の人口7,700万人の0.96%)とされている。当時の世界人口は約20億人でその3分の1が罹患し、およそ4,000万人が死亡した(人口の2%)という報告がある。猛威をふるった感染症と言えるだろう。
現在(2021年2月初め)、新型コロナウィルスがパンデミックを起こしている。100年前のスペイン風邪のように世界中を巻き込んでいる。この先の展開は分からない。ただ、100年前と違い、明るい点がいくつもある。情報がきわめて速く伝わり、国境を超えた人々の協力が格段に向上している。病気の本体が分かり、検査機器があり、治療手段が増えている。呼吸器があり、ECMOがあり、各種治療薬が開発されている。しかも効力のあるワクチン接種がもうすぐ始まろうとしている。新型コロナウィルスが病原性を減ずる方向に変異するか、あるいはワクチン接種が効果をあげて、来年、桜の咲くころには散発的な発生になっていることだろう。そう期待したい。それまで当分、感染しないように、マスク、うがい、手洗い、3蜜回避、ソーシャルディスタンスという生活様式を続けようではないか。